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エッセイ わが街 わが友 2 玉川上水
「 ワァ〜、なに? なに? あの、光ってるの? 」
鬱蒼と木々が覆いかぶさる玉川上水の、小さな橋の上、女子大生の私達は叫んでいた。隣の男子学生が、笑った。
「 蛍だよ! 見たことないの? ホ・タ・ル! 」
へえ・・・・・あれが、ホタル?
小川のせせらぎの合間に、チラチラ光る、蛍の幻想的な世界に、
口をポッカリと開けた私は、言葉を失っていた。
三重の田舎育ちなのに、実際に飛んでいる蛍を見たのは、生まれて初めてだった。
伊勢神宮のお膝元で育ったものの、所詮伊勢市も、地方都市、
神宮の森にでも入り込まなければ、蛍を見ることなど、なかった。

田舎から上京し、入学した東京の大学、津田塾大学は、夢見ていた都会とは全く違う、
武蔵野の自然の中に鎮座していた。
大学構内の寮に入った私にとって、この玉川上水は、庭のような存在、
クラスメイトと、悩みの相談は、必ず、玉川上水のベンチだったし、
隣の一橋大学の学生とのデートも「ラヴァーズレーン」と呼ばれる上水沿いを歩いた。

「ストーム」と呼ばれる、一橋大の寮生が津田の女子寮を襲う・・・
所謂、「行事」のようなものがあった。
夜半、男子禁制の寮に、男子学生が入り込むのだ。
女子寮では、裏門の鍵を開け、一橋大生を迎え入れ、見事、部屋突入が成功すれば、
トランプなどをして遊ぶという、他愛無いものだが、
そのストームを阻止する「バットマン」がいた。
津田塾大学のガードマンのおじさん、文字通り、野球のバットを振り回し、
「 ウオォ〜〜〜!! 」と、男子学生を、追い返す。
そのバットでの殴り方が半端じゃなく、骨を折ったとか、失明寸前になったとか、
伝説が残るほどの奮闘振り。
ストームの翌日、夕べ、バットマンに殴られ追いかけられて、上水に逃げ、
川の水で、傷を洗ったんだゼと、自慢しに来た男子学生がいた。
蛍の穴場を教えてくれた彼だった。

遠く思う玉川上水は、実に、甘いな・・・

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( 東京新聞 2007 11/19 掲載 )

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