<< エッセイ わが街 わが友 2 玉川上水 | main | エッセイ  わが街 わが友 4 新宿歌舞伎町 >>
エッセイ わが街 わが友 3 国立
・・・ 桜吹雪の、真っ只中 ・・・
こんなに、堂々と、延々と続く桜並木を見たのも、
身体中に纏わり付くように、花びらが飛び廻るのも、初めての経験
    
中央線、国立駅前、大学通り。
大学の新入生の勧誘で、演劇サークルに入ると決めた私は
先輩の学生に連れられて、四月の風の強い日、国立駅に降り立った。
広い通りも桜並木も、
大学生になって高揚した気持ちに沿うように、踊って見えた。
お隣の一橋大学の劇団「己疑人」のアトリエが、
国立の大学構内に設えられ、私は、その日から毎日、
ひんやり薄暗く,かび臭いクラブハウスのアトリエに通った。
スタニラフスキーとか、ブレヒトとか、
先輩の学生達は、演劇論を論じ、
芝居はベケットや、イヨネスコの不条理劇を、好んで上演、
時には唐十郎さんの作品も選んでいた。
私は、地方の女子高で演劇部に所属していたが、
時々、作品が難解で理解できず、おずおずと意味を尋ねたりした。
しかし、先輩には、小馬鹿にした顔で、
「 芝居ってさ、わかっちゃ、おしまいなんだ!」
と、非難されてしまった。

ある日、東大の五月祭に、皆で、意気込んで、
芝居を見に行くことになった。
「 評判 」の演劇サークルがあると言う。
「 観てやろうじゃないか!!! 」

東大の教室で上演されていた芝居は、荒唐無稽でわかりやすく、
観るものの気持ちを掴んで、ワクワクゾクゾクさせた。

その帰り道、いつもは、激論ばかりの先輩達が、押し黙ったまま、
中央線オレンジ色の電車の中で、揺られていた。
国立駅に降り立った時、一人の先輩が、ポツリと言った。
「 芝居ってさ、俺、何だか、わかんなくなっちまった・・・ 」

東京大学の芝居は、「夢の遊民社」
主宰者で主役は、まだ東大生だった野田秀樹さん。

その日、国立駅前の大学通りは、
サツキの花が、赤、白、ピンクと、模様をなして、
絨毯のように、咲き乱れていた。
あの通りは、学生達の青い思いを、
一年中色を変えながら吸い取ってくれていた。

***********************************
( 東京新聞 2007 11/20 掲載 )

エッセイ | 00:07 | comments(1) | trackbacks(0)

Comment:
2007/11/26 4:05 PM, 銀齡の果て wrote:
昨今は若者の「無関心」が嘆かれているが、それでも生きているからいいんですよ。
昔は酒場で映画論、演劇論、哲学を語りあって、すごく胡散臭かったし、極端な政治思想への偏向もあって危険な時代だった。
Add a comment:









Trackback: