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エッセイ  わが街 わが友 4 新宿歌舞伎町
秋晴れのある日、私は、長い列に並んでいた。
列の先頭は、地下の劇場に繋がっている。
「シアター365」という名の劇場は、歌舞伎町の裏手の路地にあった。
当時、絶大な人気を誇る劇団「東京キッドブラザーズ」の芝居チケットを買うため、
多くの人が並んでいたのだ。

女優になりたいという夢を持ちながら、結局何も出来ず、私は、大学四年の秋、
母校である、三重県のミッション系女子高の、教師に内定していた。
母一人娘一人の家族で、母が喜んでくれたことが、唯一、嬉しかった。
一方、自分の一生が決まってしまい、焦燥感でいっぱいの毎日でもあった。
このまま、教師になって、お見合い結婚して、三重県に一生住むのかな・・・・
最後の足掻きのように、出来るだけ沢山の芝居を見ておこうと、
私は、この日も列に加わっていた。

ふと、周りがざわめく。
劇場から、劇団の主宰者、東由多加氏が出てきたからだ。
雑誌の記事では見知っていたが、本人を見るのは初めてだった。
心臓が高鳴った。
足早に進められていた東氏の足が、ふと、私の横で止まった。
目が合う ・・・ 何だろう? ・・・ ドキドキ
少し首を傾げた後、東さんが、唐突に、
まるで、「 君だけに 」と、歌うジュリーと同じ素振りで、私を指差した。
「 あなた! 女優やりませんか? ・・・・・」

次の日から、私は、年末に予定されている、武道館公演の稽古に通うようになった。
母校の教師の内定も断り、母は落胆したが、夢だったからと、最後は励ましてくれた。
夜中までの稽古、中央線の最終電車に遅れないよう、歌舞伎町のど真ん中を、
私は、毎晩、新宿駅まで疾走した。
怪しげな店が続き、猥褻な言葉を投げかける、男達の中を、
22歳の私が、駆け抜けて行く。

ギトギトのネオンも街の悪臭も、薄汚いチンピラ達も、
その頃の私には、歌舞伎町の全てが透明に輝いていた。

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( 東京新聞 2007 11/21 掲載 )

エッセイ | 00:08 | comments(3) | trackbacks(0)

Comment:
2007/11/27 10:37 AM, はむはむ wrote:
本当にドラマチックなお話ですね!
michi先生にもぜひお会いしてみたかったですが。

michiさんのエッセイ素敵です。
この連載はどのくらい続くのでしょう?
2010/09/17 12:07 AM, 村石太マン wrote:
東京キッドブラザーズ 僕も好きでした
哀しみのキッチンみたかったなぁ
ペルーの野球 シェルブールの雨傘
霧のマンハッタン(映画)を 見に行きました。柴田恭兵さんが キッドで すごい人気の頃かなぁ。三浦浩一さんの 芝居は 見たことがなかったなぁ。
2010/09/18 8:48 PM, michi wrote:
村石さま
キッドの頃のことを懐かしがってくださって
ありがとうございます
私も、キッドも、また、この07年のエッセイも
今(2010.9)、懐かしく思っています
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