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エッセイ  わが街わが友 5 曙橋
丸の内線、四谷三丁目駅から、15分程歩くと、フジテレビに着く。
その翌年には、都営新宿線が開通し、「曙橋」という最寄の駅が開通すると、
人事担当者は、言っていたっけ・・・。
フジテレビアナウンサーの、最終面接試験のため、私は、道を急いでいた。

一年近く、劇団に所属したものの、
結局、上演する芝居そのものや、中の体質が合わなかったのだろう、
私は、女優をあきらめ、「 堅気 」の仕事に戻ろうと、大学を卒業した秋に、
「 想い出作り 」のように、テレビ局の入社試験を受けていた。

「 目標とするアナウンサーは、誰ですか? 」
試験官の質問に、戸惑った。
「 アナウンサー 」を目指したことなどなく、
それこそ、アナウンサーの名前なんて、誰も、思いつかない。
口篭りながら、突然、閃いた、その名前・・・
「 あのう・・野際陽子さん! 」
昔、NHKにいらしたという女優さんの名前を思い出し、苦し紛れに、答えた。

全てが万事、この調子だった。
専門の養成所に通っていた他の受験者とは、明らかに、発声法も、違った。
私は、芝居以外で、あの高いトーンの喋りは、恥ずかしくて、出来なかったし、
ビデオを見ながらのレポートも、しどろもどろで、目も当てられなかった。
良く最終試験まで残ったもの ・・・ でも、もうダメだろうな ・・・
・・・ 今日の面接では、他の受験者のように、アピールも出来なかったし・・・。
私は、外苑東通りの橋の上にもたれ、夕日を眺めながら、大きくため息をついた。
合計7回も、試験場であるテレビ局に通い、
途中の、この橋が、私のお気に入りの場所となっていた。
そこから見る秋の夕日は、息を呑む程、真っ赤で美しい。
「 ハハ・・・・・今日でお別れだ 」
石に刻み込まれた「曙橋」という文字を、私は何度も撫でて地下鉄の駅に踵を返した。

その後、なぜ私が、フジテレビのアナウンサー試験に合格したのか、今もって不思議だ

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( 東京新聞 2007 11/22 掲載 )

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